◯津島町路上

 ホームレスらしき男H(40)がよれよれになって歩いている。

 ホームレスの男に誰かの足が忍び寄る。

 ホームレスの男がバットで殴られる。

 倒れたところをナイフで刺される。

 道端でホームレスの男が倒れている。

 

◯住宅街

 津島町警察本部の巡査部長の秋田(35)がアパートの住人X(22)に聞き込みをしている。

住民X「見ました。この目でみました!」

 X、妙に興奮している。

秋田「間違いないのかね?」

X「はい。間違いなくあの女です。血まみれになって部屋に入っていきました」

 秋田、うーん、と考え込む。

 

◯アパート一室

 Xと秋田がドアのところに行く。

 秋田、インターホンを押す。

 少し経って青木由紀子(21)の返事がする。

青木「はーい」

 ドアを半分開けてでてくる青木。

 秋田とXがいるのを見てXには軽く会釈をする。

秋田「青木由紀子さんですね?」

青木「そうですが」

秋田「あなたを殺人の容疑で逮捕します」

青木「はい?」

 秋田、すばやく青木の手に手錠をかける。

 呆然とした顔の青木。

 

◯町内尋問所

 薄暗い部屋。ぽつんと置いてある椅子に手錠を掛けられた青木が座っている。

 部屋の隅は暗闇の塊。そこに顔の見えない男A(55)が一人いる。

青木「あの・・・」

A「なんだね」

青木「何で私が犯人なんですか」

A「目撃証言があるんだよ」

青木「どんな」

A「昨日の午後9時頃、君が血まみれになってアパートに入っていくのを見たって言う」

青木「誰がそんなことを・・・」

A「そんなことはどうでも良いでしょ」

青木「私、昨日の午後9時頃は図書館にいました」

A「証拠は」

青木「いっしょにいた人がいます」

A「本当かね」

青木「はい、私の友達です。電話してみてください」

A「わかった」

 青木の携帯電話を勝手に持っている。

青木「あ、それ・・・」

A「君の電話だ」

 青木の友達の番号を探している。

A「君、友達いないんじゃない?ぜんぜん入ってないよ」

A「で、誰だねそのお友達は」

青木「花沢って言う名前です」

A「花沢ね・・・」

 電話をかけるA。青木、息を呑んで見守っている。

A「あ、もしもし」

A「花沢さんですか。あ、私は町役場の法務局に勤めている者です。」

A「はい、昨日の事件のことでちょっと・・・」

A「そうですか。はい。どうも、ありがとうございました」(途中でonになる)

 電話を切るA。

青木「あの・・・」

A「残念ながら彼女は昨日、家にいたと言っています」

 青木、立ち上がる。

青木「うそ!」

 ドアをノックする音がする。

 入ってきたのは秋田。

 秋田、手に持っている紙の束をAに手渡す。

 紙を渡してから秋田の隣に立つ。

 青木、秋田の顔を見る。

 秋田、チラッと青木を見る。

 咳払いを一回する。

A「ゴホン。ええ、今、審査官の決議が出ました」

A「賛成10。反対0。よって青木由紀子をこの事件の犯人と断定する!」

 青木、Aの元に詰め寄ろうとすると前に秋田が立ちはだかる。

青木「ちょっと待ってください!私の意見も聞いてください」

A「その前に審査官の意見を聞きなさい」

A「審査官番号01143454、『間違えなく青木が犯人だ。奴は毎日のようにホームレスの文句を言っていたそうじゃないか』・・・審査官番号01457826、『青木が何度かホームレスと会っていたそうで』・・・審査官番号02454526『だいたいあの子が血まみれになって家に入っていったって言う証言があるなら間違いないんじゃないですか』・・・審査官番号02190930『おれは腹が減ったあいつが犯人でいいじゃないか』・・・審査官番号03214545『なんて残酷な殺し方なんだ。即刻死刑にしろ・・・」(途中でoffになって青木の表情を映す。)

青木「もう良いです!」

 青木、諦めて座る。

A「まあ、どちらにせよこの決議を翻すことはできない」

 青木、泣きそうだけど我慢する。

A「我々は人権上の問題から君を拘束するようなことはしない。だから明日までは君の自由に暮らしたまえ」

 青木、顔を俯けている。

A「次回公判は明日の午後5時からだ」

 

◯帰り道

 少し早足で歩く青木。後ろに秋田がついてくる。

青木「・・・あの」

秋田「判決が出るまであなたは私の監視下に置かれるんです」

 青木、ちょっと何か言いたそうな顔をしてからそっぽを向いてまた歩き出す。

青木「・・・」

 

◯アパート一室

 青木が呆然とした顔をしている。

 ドアにはでっかく『人殺しの家』と書かれた張り紙が張ってある。

 泣きそうなのを我慢して黙って紙をはがす。

 青木、鍵を開けようとする。

 鍵がなぜか合わない。

青木「?」

 何度か繰り返したり、鍵を探したりするが鍵が合わない。

秋田「どうやら、もう部屋には戻れないようですね」

 青木、秋田の方を振り向く。

青木「なんでですか?」

秋田「たぶん、住民から苦情がきたんでしょう。人殺しとは住みたくないって」

青木「そんな・・・」

 

◯公園

 青木、ベンチに座って悩んでいる。

青木「どうしよう・・・。家に入れないなんて」

  秋田、ベンチの近くで立っている。

青木「・・・」

  青木、友達に電話をする。

青木「あれ・・・」

 秋田、黙って見ている。青木、電話を切る。

青木「そうだ」

青木、とりあえず友達の家に行くことにする。

 青木、小走りで去っていく。ついていく秋田。

 

◯青木の友達のアパート

 ピンポーンとインターホンを押す。が、返事は返ってこない。

青木「あれ、いないのかな・・・」

 またインターホンを押す。また、返事が返ってこない。

 青木帰ろうとしたらドアを半開きにして花沢(21)顔だけ出す。

花沢「何?」

青木「あの・・・」

花沢「何しにきたの?」

青木「あの・・・。今日泊めてくれない?」

花沢「あんたなんか入れたら私まで疑われるでしょ?」

青木「あ・・・」

 ガチャン、とドアが閉まる。

 ぽつーん、と立ち尽くす青木。さすがに泣きそうだがまだこらえる。

秋田「他に友達は?」

 青木、少しためらう。

青木「顔見知りならいますが・・・」

秋田「いないんですね、友達が」

 青木、顔をうつむけたまま立ち去る。

秋田「寂しいねえ・・・」

 とつぶやき青木について行く。

 

◯公園

 青木がベンチに座っている。さびしそうに。

青木「どうしよう・・・。今日は野宿かな」

秋田「残念ながらそうなりますね」

 顔をうつむける青木。

青木「お腹すいた・・・」

 立ち上がる青木。

秋田「どこに行くんですか?」

青木「ちょっと食べ物を・・・買いに」

 

◯コンビニ前

 秋田が青木を待っている。

 青木が袋を持って出てくる。

 青木、秋田がいるのを無視するかのごとくさっと歩いていく。

 秋田、青木について行く。

 

◯運動公園

 公園のベンチで肉まんを食べる青木。

 温かい肉まん・・・。もう、殆ど泣きそうである。だが、我慢する。

 秋田、黙って遠くを見ている。青木、その秋田の顔を見て、

青木「食べます?」

 秋田、チラッと見る。

秋田「結構」

青木「いいですよ。私、あまり食欲がないから」

秋田「そうですか。じゃあ、いただきましょうか」

青木「うそ」

 青木、がぶりと肉まんを食べる。

 秋田、少し恥ずかしそうな顔をする。

 秋田、また遠くを見ている。

 青木、少し笑ってる。

 黙って、肉まんを差し出す青木。黙って受けとる秋田。

 ×     ×      ×

 ベンチで眠っている青木。

 秋田はまだ起きて監視している。

 秋田、青木の寝顔を一寸みて、自分のコートをかけてやる。

 

◯町内尋問所

 青木の前に机が置いてある。隣には秋田がいる。

 その机の前には長机があり、そこには前回の尋問でいた顔の見えない男がいる。

A「さあ、その紙に君の名前を書きなさい」

青木「ここですか?」

A「そう」

 青木、名前を書く欄に名前を書く。

 紙を受け取る。秋田に紙を渡して秋田は紙を持って部屋を出る。

A「今から審査官による真偽が行われる」

青木「あの、私に反論する機会はないんですか?」

A「今したまえ。ここはカメラで見られているから」

青木「そうだったんですか・・・」

 ×      ×      ×

青木「まず、あなた達のやり方は尋常じゃありません」

青木「何も知らされず、逮捕令状もなく逮捕して、しかもこんなあやふやな裁判をして一住民を裁くなんて民主的な市民のやることじゃありません」

青木「だいたい私のアリバイをきちんと調べてもいないじゃないですか?」

青木「この町はどうかしています!誰か私のことを恨んでいる人が私のことをはめようとしてこんなことを・・・」

青木「?」

 青木、Aのことをよく見て見る。

 エロ本を読んでいる。

青木「聞いているんですか?」

A「あ、何?」

青木「・・・」

A「ところであのホームレスのことを知っていたそうだね」

青木「はい」

A「どうやって出会ったのかね?」

青木「それは・・・」

 

◯公園(回想)

 ベンチに座って肉まんを食べている昔の青木。

 近くで男が空き缶をぽい捨てする。

 よくみると近くにジュースの空き缶やごみが散らばっている。

 それを見て片付け始める青木。

 大量のごみを片付けていると、ぶっ倒れているホームレスHを見つける。

青木「あの、大丈夫ですか?」

H「うぐぐぐ。」

青木「あの・・・」

青木「!」

 青木、Hが大怪我をしているのを見つける。

青木「あの、怪我してますよ」

H「ほっとけ」

 青木、ハンカチを出して手を縛ってあげる。

青木「しっかりして下さい。」

 青木、Hのほこりを払ってやる。

 青木、何かを思いついたようにベンチに戻って肉まんをとりに行く。

青木「あの、これ食べてください」

 Hの手に肉まんを握らせる青木。

 H、肉まんを食べる。ゆっくりゆっくり。

 H、涙を流す。

 

 

◯町内尋問所(回想戻る)

A「全然良い話じゃないよ。悪いけど」

青木「別に良い話をしたつもりはないんですが・・・」

A「まあ、そんなくだらない話じゃ審査官は動かないだろうな・・・」

青木「別にそんなつもりじゃ・・・。あなたが聞いたから言っただけなのに」

 秋田が紙を持って入ってくる。

A「ごくろうさん」

 紙を受け取るA。紙を見る。

A「ゴホン。ええ、またまた賛成多数であなたを死刑に処す」

青木「はい?」

A「死刑だよ、し・け・い」

青木「あの・・・」

 立ち上がって机に足をかける。

 初めて顔が見えるA。なぜかアニマルマスク。

A「死刑に決まり!」

 青木、わけがわからなくなる。

青木「なんで死刑なんですか!」

A「審査官の総意だ!」

 秋田、呆然とAを見ている。

秋田「・・・」

青木「私は何もやってないのにどうして死刑なんですか!」

A「この裁判で決まったことは絶対だ。上告できれば良いけどね」

 A、元の椅子に座る。

青木「もちろん上告しますよ!」

A「だが、あんたの資金力と身分じゃまず無理だ」

秋田「そうだ。我々でも無理なところがある。我々は身分の低い役人だ。上の裁判に行くには上級の役人に会わなくてはならない」

青木「じゃあ、その人たちに合わせてください」

秋田「それは無理だ。役人の我々でも無理なんだ。それが津島町の一町民の小娘に上の方があってくれるはずない」

A「この国の官僚機構は恐ろしく大きくなってしまったからね」

青木「・・・」

A「我々だって悲しい。なんせ上の人が何やってるかさえわからずに仕事をしているからね」

  

◯公園

青木のN「処刑は明日だった。残された時間は自由に暮らして良いとのことだった。」

 遊んでいる子供を見ている青木。

青木のN「自由に暮らせるわけない・・・」

 青木、秋田の方を見つめる。

 秋田、黙って遠くを見つめている。

 青木、顔をうつむける。

青木「何で、死ななくちゃいけないんだろう、私が」

 青木、立ち上がる。

秋田「どこに行くんですか」

青木「トイレです。ついてこないで下さい!」

秋田「中までは行きませんからご安心を」

 青木、そっぽを向いてスタスタ歩いていく。

 秋田、トイレの外で待っている。

 秋田の近くでホームレスY(40)が背広の男(29)に殴られている。

 背広男がYにつばを吐きつけている。

 そのまま去っていく背広男。

背広男「けっ!」

 青木、トイレからでてくる。

 秋田の方を見ないで無視して去っていくと、いきなり目の前にぼろぼろのYが現れる。

青木「うわっ」

 Y、何かぼそぼそ言っている。

青木「あの・・・」

 Y、突然倒れる。

青木「あ」

 青木、かがんで男に話し掛ける。

青木「あの、どうかしたんですか」

Y「腹減った・・・」

青木「あの・・・」

Y「何か食いたい・・・」

 意識を失うY。

 青木、立ち上がって飯を買いに行こうとすると秋田に止められる。

秋田「ほっときましょう」

青木「どうしてですか」

秋田「あなたは明日殺されるんですよ」

青木「だから?」

秋田「面倒なことになったら殺すのに手間がかかるじゃないですか」

 青木、無視して食べ物を買いに行く。

 青木、Yをベンチに座らせて肉まんを食わせる。

 Y、吐き出す。

青木「大丈夫ですか」

Y「やばい、本気で死にそうだ」

 青木、肉まんをちぎってYに食わせる。

 Y、我慢して食べる。

 

Y「ああ、ありがとう」

 青木、首を縦に振って答える。

Y「ああ、それにしても何日ぶりだろう」

青木「食べたのが?」

Y「いや、人と話したのが」

青木「あ、そうですか・・・」

Y「危うく言葉も忘れるところだった」

青木「そんなことあるんですか?」

Y「さあ」

青木「ありませんよ普通」

Y「そうだね」

 二人が笑う。秋田はあくびをする。

Y「ああ、これからどうしよう・・・」

Y「家にも帰れないしな」

青木「どうしたんですか?」

Y「うーん。ちょっと家賃が払えなくてさ」

青木「追い出されたんですか」

Y「まあ、そんなもんかなあ」

 青木、ふふふふと笑う。

Y「あれ、人の不幸がそんなにおかしい?」

青木「いや、違うんです」

Y「じゃあ、どうしたの」

青木「実は私も追い出されたんです」

Y「え、何で」

青木「それは・・・」

 青木、秋田の方をチラッと見る。

青木「言えません」

Y「あ、そう」

 すっかり暗くなった公園。

Y「でも、何か気になる」

 青木、また笑う。

青木「明日、役場に来たら理由がわかりますよ」

Y「役場?」

青木「法務局に聞いてみてください」

Y「ほ、法務局・・・。これまた物騒な」

青木「そうですよね?秋田さん?」

秋田「・・・」

青木「あの」

Y「?」

 青木、財布をYに渡す。

青木「これ全部使ってください。」

Y「え?」

青木「結構入っていると思います」

Y「そんな、もらえないよ・・・」

青木「大丈夫。もう私には必要ないから」

Y「いやでも」

 笑顔で話す青木。

青木「私、もうあまり長く生きられないから」

Y「え?」

青木「ちょっとした・・・病気で」

Y「そ、そうなんだ」

 青木、立ち上がってYの元を去ろうとする。

Y「いや、でもやっぱりもらえないよ」

青木「お願い」

 さっと立ち去る青木。

 秋田、いつものようについて行く。

 呆然としているY。

 

◯公園の外

 今まで我慢していた気持ちがあふれ出て涙を流す青木。

 秋田、そっと近寄る。

秋田「だからやめとけって言ったんだ」

 青木、目の涙を拭いている。

青木「死にたくない。」

 秋田、呆れ顔。

 

◯公園

 Yが財布を見ている。

Y「なんだ、これっぽちかよ」

 

◯大きな木のある広場

 人気のない場所。

 青木が木に張り付けられている。

 張り付けているのは秋田。

青木「まさかあなたが執行人?」

秋田「その通り」

 秋田が青木のそばから離れる。

 拳銃を構える秋田。

秋田「最後に何か言いたいことは?」

 青木、少しうつむいて考える。

秋田「早く!」

 青木、泣いている。

青木「お願いします!殺さないで下さい!私はまだ・・・」

青木「私・・・何もやっていないんですよ・・・」

 秋田、無視して引き金を引く。

 

◯暗い部屋

 そこにホームレスのYが入ってくる。

 手錠を掛けられている。

 Aが目の前にいる。

 秋田もいる。

A「何だね君は?」

秋田「こいつが犯人です」

A「なんの?」

秋田「殺人の」

A「ああ、そう。で、何の犯人?」

秋田「ホームレス殺しの」

A「え?どいういうこと?」

秋田「自首してきたんですよ」

 A「そっか」