〇居酒屋(夜)

全国チェーンの居酒屋。

だし巻き卵を運んでいる春(22)。名札に手書きで宗方春と記入されてファンシーな絵も添えられている。

×   ×   ×

4人席の個室で、村瀬(22)と仁科(22)とその先輩男性2名(2人ともスーツ、23)が酒を飲んで談笑している。

(先輩1と先輩2がいるが)先輩2はかなり酔っている。

料理を持ってくる春。

春「失礼します」

村瀬「今年の学祭、自主映画上映するんですよ」

先輩1「ああ、そうなんだ」

村瀬「先輩たちも、良かったら見に来て下さいよ」

春「だし巻き卵です」」

春、だし巻き卵を置く。

酔っている先輩2、春をじっと見ている。

春、愛想笑い。

先輩1「仕事で行けるかわからんけど」

仁科「いやいや、ぜひ」

先輩2「宗方さん」

いきなり知らない人に名前を呼ばれ驚く春。

春「はい!?」

先輩2「かわいいね」

春「え・・・」

先輩2「あ、その絵がね」

春「ああ・・」

春、名札を見る。

一同、静かになる。

春「そうですね、ありがとうございます」

春、愛想笑いして去ろうとする。

仁科「あ、これ」

仁科、空のグラスを出す。

春「はい」

春、グラスを受け取り去って行こうとすると先輩2が腕をつかむ。

春「きゃ!」

先輩1「おい」

村瀬・仁科「・・・」

先輩2「あ、生一つ」

春「ああ、はい」

春、伝票を書く。

先輩2「大学生?」

春「ああ・・・、はい」

先輩2「今、何年?」

春「・・・4年です」

先輩2「就活とかしてる?」

春「え?」

先輩2「いや、『え?』じゃないよ、客に向かって」

仁科「先輩・・・」

先輩2「社会人でやっていけないよ(、そんなんじゃ・・・)」

春「すみません、失礼します」

先輩2「おいおいおい、切れてんの?」

村瀬「あ、先輩・・・」

村瀬、先輩2の前に立ち、邪魔をする。

先輩2「え?」

村瀬「(春に)あ、すみません」

春「・・・」

春、ありがとう、と言いそうな表情。

村瀬「あ、早く行って」

春「(睨む)」

村瀬「・・・」

去って行く春。

 

〇メインタイトル

 

〇厨房(夜)

皿を持ってくる春。

春「死ねば良いのに」

料理をひとりで作っている店長(男、30)。

店長「そういうこと言わないの」

春「今度、何かしたらぶん殴る!」

店長「暴力はだめ」

結(22)が、急いで料理をとりに来る。

結「ああ、あそこのお客さん?」

春「そう、むかつく」

結「うちらと同じ大学っぽいね」

春「腕つかまれたんだよ」

結「ええ?最悪だね」

春「そう。本当、死ねば良いのに」

店長「口動かさないで体動かす」

春「あ、はい」

春、できた料理を持って行く。

 

〇居酒屋・前(夜)

先輩1が先輩2を介抱している。

仁科が笑ってみている。

何かが割れる音が響く。

 

〇居酒屋(夜)

花瓶が割れている。

それを割った張本人(男)が気にせず去って行く。

去った男、かなり酔っている。

後ろに村瀬。

村瀬「ああ・・・」

そこに食器を持った春。

春「・・・」

春、皿を置き、村瀬に近づく。

村瀬「あ、危ないですよ」

春「ちょっと」

村瀬「?」

二人、同時に立ち上がる。

村瀬「あ・・・、えっと」

春、いきなり村瀬の頬を平手打ち。

村瀬「!」

春「弁償」

村瀬「え?」

春「これいくらすると思ってんの?」

村瀬「いや・・・、僕じゃないし」

春「は?じゃあ、あんたの先輩?」

村瀬「いや、だから違うって」

春「こういうの、割って『はい、すみません』で済むと思う?」

村瀬「ちょっと聞いてよ!」

春「大学、行ってるのに、そんなのもわかんない?」

村瀬「違うんだって!」

そこに店長と真犯人の男。

店長「ちょちょちょちょちょちょ!」

春「店長!、これ」

店長「何やってんの?」

春「いや、だからこいつ」

店長「こいつじゃないって、お客さんに」

春「いや・・・」

店長の後ろの真犯人。申し訳なさそうな顔。

村瀬、春を睨む。

店長「(村瀬に)すみません」

春「え?」

店長「この人じゃない。あの人」

店長の後ろの真犯人、頭を深く下げる。

春「あ・・・」

 

〇厨房

閉店後。

春、店長に怒られている。

春「すみません」

店長「客、ひっぱたくの初めて見たんだけど」

春「あ、違うんです。聞いて下さい」

店長「あのさ、大きな声じゃ言えないけど、ここ、ただでさえブラックとか言ってネットでたたかれてるのに、店員が暴力振るったとかつぶやかれたらどうするの?」

春「・・・はい」

店長「あのさ、何があっても暴力はだめ。ね?わかるでしょ?」

春「次はしません」

店長「いや、次とかないし!」

春「はい」

店長「もう来なくて良いから」

春「え!?」

店長「本社に報告したから」

春「・・・」

結、来る。

春「・・・」

結、春の肩に手をのせる。

結「暴力はだめだ」

春「・・・はい」

 

〇地方の大学

 

〇学食

春、一人弁当を食べている。

春を見つける結。

結、春の前に座る。

春「・・・」

結「春・・・」

春「・・・」

結「昨日は災難だったね」

春「・・・うん、100%(ひゃくぱー)私が悪いけどね」

結「まあ、暴力は良くないよね・・・」

春「・・・」

結「あ!店長に取り消すようにかけあってみようか」

春「本社に連絡してたし、無理だよ」

そこに村瀬と仁科が通り過ぎる。

春と村瀬、目が合う。

仁科「?」

村瀬「・・・」

春「・・・」

結「あ・・・」

仁科「あ」

村瀬「良いわ。行こ」

仁科「うん」

村瀬と仁科、去って行く。

春「・・・」

結「あ・・・」

春「何?」

結「一応、謝ったら?」

春「・・・」

結「一応・・・」

春、無言で立ち上がり、村瀬を追う。

春、村瀬に追いつき、声をかける。

春「あの」

仁科・村瀬「?」

春、村瀬に小さく指を指す。

村瀬「・・・何?」

春「昨日・・・」

村瀬「ああ・・・」

春「・・・」

村瀬「・・・」

仁科「あ、昨日、先輩がなんか迷惑かけちゃって」

春「・・・」

村瀬「・・・」

春「昨日はごめんなさい」

村瀬「・・・」

春「ああ・・・同じ大学だったんですね」

村瀬「うん」

春「・・・」

村瀬「・・・けっこう痛かったよ」

春「・・・」

村瀬「ああ・・・、ごめん、良いよ」

春「・・・」

村瀬「?」

春「あの・・・、こんなこと言うのなんですけど」

村瀬「?」

春「クビになっちゃったんですよ」

村瀬「え?」

春「ああ。まあ、私が悪いんで」

村瀬「・・・」

春「あ、だから何って、わけじゃないんで!」

春、きびすを返し去っていく。

村瀬「・・・」

 

〇春の自宅(夜)

ご飯を作っている春。

パソコンに向かって仕事の書類を書く春の父の裕次(45)。

春「(言いにくそうに)あのさ・・・」

裕次「ん?」

春「バイト、クビになっちゃった」

裕次「え?そうなの?」

春、料理を運ぶ。

春「だから、来月、ちょっと厳しいかも」

裕次「そっか」

座る春。

春「ごめんね」

裕次「なんでクビ?」

春「ああ・・・」

裕次「まあ、いいや。いただきます」

春「いただきます」

料理を食べる二人。

裕次「あのさ、就職どうするの?」

春「え?ああ・・・」

裕次「まだ、考えてない?」

春「バイト忙しくて・・・」

裕次「バイト先で働くの?」

春「いや、クビになったし」

裕次「ああ、そっか」

春「あそこブラックだし」

裕次「ブラックか」

春「社員の人・・・店長、愚痴ばっか。あんなとこで社員は無理」

裕次「選べる身分ならな」

春「・・・うん」

裕次「やっぱ特にないんだ。希望とか」

春「まあ・・・、食って行けて、ブラックじゃなければ」

裕次「何だよブラックって。あ、じゃあ、前お父さんが言ってたとこ、行くか?」

春「え?ああ、お父さんの知り合いの」

裕次「うん。なんか働くならもう来月とか来て欲しいって」

春「ああ、最初バイトでってこと?」

裕次「そう」

春「うーん」

裕次「選べる身分じゃないよ」

春「知ってる。じゃあ、行くよ」

裕次「じゃあ、言っとくよ。良い?」

春「うん」

 

〇映画館(日替わり)

町に一つのミニシアター。

春、一人スマホをいじって上映を待っている。そこに着信。

春「あ、宗方です」

店長の声「ああ、今日、来れる?」

春「え?えっと・・・」

店長の声「いや、こっちからこんなの悪いけど、クビ取り消しにする」

春「どういうことですか?」

映画上映の案内が始まる。

春「あ、でも、今から・・・、ちょっと用事が」

 

〇厨房

電話している店長。

店長「いや、ちょっと事情があってさ」

春の声「え?人が足りないとかですか?」

店長「違う」

店長の横に申し訳なそうな顔で立っている村瀬。

店長「クビ取り消して欲しいってしつこくて・・・」

村瀬、頭を下げる。

 

〇大学構内

春、音楽を聴いて歩いている。ちょっとノリノリ。

そこに結が話しかけに来る。

結「よ」

春「わ!びっくりした」

結「聞いたよ」

春「何?あ・・・」

結「クビ取り消し」

春「ああ・・・」

結「店長、もう本社に連絡したから取り消すの大変だったって」

春「そうだね・・・」

結「?」

春「今日暇?」

結「あ、私今から卒論あるから」

春「ああ・・・、うん、じゃあ良い」

結「急ぎ?」

春「あ、大丈夫だから」

結「うん・・・」

春、去って行く。

 

〇サークル棟

春、何かを探すように廊下を歩いている。

 

〇部室

映画研究部の部室。

ソファで寝転がって漫画を読んでいる村瀬。

仁科は部長の三浦(20)とゲームをやっている。

そこにノック。

村瀬、仁科、三浦、見合う。

三浦「はい」

春がドアを開けていきなり入ってくる。

春「失礼します」

村瀬「!」

村瀬、起き上がる。

三浦「あの・・・」

春「いた!」

春、三浦を無視して村瀬の腕をつかみ外に連れ出す。

三浦、仁科、見合う。

三浦・仁科「?」

 

〇廊下

向かい合った春と村瀬。

村瀬「(不機嫌に)・・・何?」

春「・・・」

春、頬を差し出すようにしている。

村瀬「え?」

春「良いよ。殴って」

村瀬「え?」

春「良いから!」

村瀬「いや、それは・・・」

春、村瀬の手を持つ。

春「さあ」

村瀬「じゃあ」

村瀬、春の頬を軽く平手打ち(手を当てる程度)。

春「ああ、本気で良いのに!」

村瀬「いや、おかしいでしょ」

春「そっか。だよね」

村瀬「ああ・・・、なんでここわかったの?」

春「上映がどうのって言ってたから」

村瀬「ああ。そうだね」

春「あ・・・」

春、深々と頭を下げる。

春「ごめんなさい!」

村瀬「ああ。良いって」

春「ありがとう」

村瀬「いや、こっちも悪かったし」

春「あの・・・」

春、顔をあげる。

村瀬「?」

春「何学部?」

村瀬「ああ、法学部」

春「ああ、私、文学部」

村瀬「うん、あれ4回生?」

春「あ、そう。何で?」

村瀬「ああ・・・、いや」

春「あ・・・、そっか」

村瀬「あ!む・な・かた、さん?」

春「ああ、うん、宗方春、あなたは?」

村瀬「ああ・・・、うん、村瀬義男」

春「村瀬さん」

村瀬「そう・・・」

春「・・・」

村瀬「どうした?」

春「いや、何でもない・・・、じゃあ」

去って行く春。

村瀬「・・・」

ドアを見ると三浦と仁科が一部始終を見ていた。

村瀬「わっ!びっくりした」

仁科「なんか変な子だね」

村瀬「ああ・・・、うん」

 

〇文学部棟、廊下

文学部の研究室前。

結が出てくる。

そこに待っている春。

春、ニコニコしている。

結「え?何?どうしたの?」

春「今、暇?」

結「え?うん、私、待ってたの?」

春「そう。ねえ、つきあってよ」

結「良いけど・・・、何?」

春「へへ」

結「?」

 

◯大学構内(夕方)

並んで歩く春と結。

ノリノリで歩く春。

結「あ、あの」

春「?」

結「なんか、急じゃない」

春「え?」

結「あの人、知り合いなの?」

春「違うけど」

結「もうちょっと段階ふんでさ・・・」

春「その段階をふもうとしてるわけ」

結「ああ・・・、そうなんだ」

春、楽しそう。

結、不安そう。

 

〇部室(夜)

ゲームをやっている村瀬と仁科。

三浦、レポートを書いている。

仁科「あのまま好きって言われたら面白かったのに」

村瀬「え!?」

仁科「いやさ、居酒屋のときからちょっと思ってたけど」

村瀬「いや・・・、その発想はないなあ」

仁科「この後、偶然の出会いがあれば完璧だな」

村瀬「あればねえ・・・」

そこでノック。

一同、見合う。

仁科「?」

村瀬「?」

三浦「あ、はい」

ドアを開けると春と結がいる。

村瀬と仁科「あ・・・」

春「どうも」

村瀬「・・・」

春「(ほほえみ)・・・」

×   ×   ×

三浦の向かいに春と結。

遠巻きに村瀬と仁科。

三浦「新入生ですか?」

春「4回生だけど」

三浦「え?そうなんですか・・・」

春「あ、でも映画好きだよ」

三浦「ああ、そうですか」

春「どうすれば良いの?」

三浦「ああ、特にないですけど、入部金払ってもらえれば」

春「いくら?」

三浦「2000円です」

春「わかった」

春、財布を出す。

結、止める。

結「ちょっと待って、入るの?」

春「え?だめ?」

結「作戦では・・・」

三浦「作戦?」

結「あ、何でもないです」

仁科「二人は、最近、何か映画見た?」

春「〇〇」

仁科「ああ、××の」

春「うん」

仁科「よく見るんだ」

春「週1で」

三浦「え!?」

春「いや、あそこの映画館レディースデーあるし」

三浦「僕なんか最近、金曜ロードショーで見たくらいですよ」

春「ああ、そうなんだ」

三浦「1年前に」

春・結「え?」

三浦「あ、これでも部長なんで」

春「じゃあ、私余裕で入部できるね」

三浦「はい」

春、結を小突く。

結「あ!」

三浦「?」

結「そんなことより・・・」

三浦「?」

結「ああ・・・、その」

春、頷いて結を鼓舞する。

結「みんなで食事いきません?」

春「あ!そうだ」

春、村瀬を指さす。

村瀬「ん?」

春「村瀬くんに、お詫び」

村瀬「え?」

結「そ、そうです!こ、この前のお詫びに、その・・・」

春「お食事、おごります」

村瀬「ああ・・・、でももう食べたから」

仁科「あ、じゃあ、良いじゃん。呑みに行こうよ」

村瀬「え?」

仁科「おごってくれるんでしょ?」

春「もちろん!」

結「え?おごるの?」

春「あ・・・」

仁科「まあ、細かいことは良いからさ。行こうよ」

春「はい!」

 

〇居酒屋(夜)

大学近くの小さな居酒屋。

個室に案内される一同。

春、結を引き留める。

春「頼むよ」

結「・・・できる範囲で」

個室に到着するがみな譲って座らない。

春が、奥に座る。

春の横に結を促す男性陣。

しかし、結は春の向かいに座る。

男性一同、困る。

三浦、何故か春の横に座る。

仁科は三浦の横に。

村瀬が結の隣になる。

春「あ!変わって」

結「ああ・・・、そうだねえ」

春「はい、失礼」

春、三浦と仁科の後ろを通って、結と席を替わり、村瀬の横に。

春「どうも」

村瀬「ああ、どうも」

春、結にウィンク。

結、微妙な表情。

仁科、二人のやりとりに気がつきニヤついている。

×   ×   ×

春、村瀬に野菜をよそう。

春「はい、どうぞ」

春、村瀬に体をぶつける。

村瀬「・・・あ、どうも」

×   ×   ×

春、村瀬としか会話してない。

春、たまに村瀬にボディタッチ。

それを見つつ会話している仁科と結と三浦。

×   ×   ×

春「あ、時間大丈夫?」

村瀬「うん」

春「彼女とか心配してない?」

村瀬「いや、いないから」

春「へええ、いないんだあ」

村瀬「でも、そろそろ行くか」

春「あ、私大丈夫だよ、彼氏いないから」

村瀬「あ・・・、いやそうじゃなくて、研究室に行かないと」

春「ああ、研究室」

 

〇居酒屋、外(夜)

春、結、村瀬が店の前で割り勘分を仁科に払っている。

結「何か、ごめんなさい。結局」

仁科「良いよ」

仁科、軽く談笑している村瀬と春を見る。

仁科「ねえ」

結「ん?」

仁科「ちょっと」

仁科、結の耳元で何かを言う。

三浦「あ、女性陣は誰が送ります?えっと・・・、宗方さん」

春「ん?」

三浦「家、どっちですか?」

春「ああ。〇〇」

三浦「ああ、じゃあ送りますよ」

仁科・結「ああ!」

三浦「?」

仁科「カラオケ行こうと思うんだけど、部長行く?」

三浦「ああ、良いですね。行きます」

村瀬「あ」

仁科「村瀬、研究室がどうのって言ってなかった?」

村瀬「え?ああ・・・」

仁科「来なくて良いよ」

村瀬「何で!?行くって。ちょっとなら時間あるし」

仁科「良いって!」

村瀬「は?」

春、村瀬の対応を見ている。

結「あ、春はどうする?」

春「え?ああ・・・(村瀬を見る)」

村瀬「?」

春「そうだなあ」

仁科「宗方さん、無理しなくて良いよ」

春「え?ああ・・・」

仁科「何か、体調悪そうだから」

春「ああ・・・、そうだなあ・・・、確かにちょっと」

三浦「あ、大丈夫ですか?」

仁科、三浦を引っ込める。

三浦「?」

仁科「村瀬、送ってあげて」

村瀬「ああ・・・」

春「すみませーん」

村瀬「・・・」

 

〇道路(夜)

並んで歩く春と村瀬。

春「ああ、何かごめんね」

村瀬「うん」

村瀬、むっとして見える。

春「・・・ああ、なんか飲み過ぎた」

村瀬「・・・」

黙る二人。

ちらっと村瀬を見る春。

村瀬、むっとしている。

春「どうした?」

村瀬「え?」

春「あ、用事あるのに、ごめんね」

村瀬「いや、別に」

村瀬、笑顔。

春「・・・うん」

黙って歩く二人。

 

〇春のアパート前(夜)

並んで歩く春と村瀬。

春、指さし自分のアパートだと言っている。

春「ありがとう」

村瀬「うん」

春「・・・」

村瀬「じゃあ」

春「待った」

村瀬「?」

春「ああ・・・」

村瀬「何?」

春「・・・」

村瀬「・・・」

春「・・・うち寄っていく?」

村瀬「・・・」

春「・・・」

村瀬「えっと・・・」

春「うそ!」

村瀬「・・・」

春「うそに決まってんじゃん、何か変なこと想像してた?」

村瀬「・・・」

春「だいたいお父さんいるし」

村瀬「そっか、そう見えたんだ・・・」

春「あ、違う・・・」

村瀬「じゃあ!」

村瀬、去って行く。

春「あ・・・」

去って行く村瀬。

春「(つぶやく)・・・ごめん」

 

〇学食

春と結、弁当を食べている。

結「・・・そっか」

春「せっかくお膳立てしてもらったのに・・・」

結「結構良い感じだったのにね」

春「嫌われたのかも・・・」

結「え?」

春「いや・・・、まあ・・・」

結「?」

春「いや・・・・なんも」

結「絶対告白はしてると思ったのにな」

春「だって振られたら嫌じゃん」

結「え?」

春「勝負するからには勝ちたいしね」

結「そう・・・、そういうもんか」

そこに無言で現れた仁科が結の横に座る。

結「うわ、びっくりした。何?」

仁科「(春に)上手くいった?」

春「え?」

仁科「村瀬くんと」

春「何で知ってるの?」

仁科「え?見ればわかるでしょ。昨日のボディタッチとか」

結「あ、ごめん。私もそれとなく言った・・・」

春「っていうかなんであなたに言わないといけないの?」

仁科「ああ、一応、村瀬くんの友人やってるので」

春「女子の会話に割り込んで来ないでくれる?」

仁科「出た!女子だって・・・」

春「・・・あっち行こっか」

結「え?ああ」

仁科「あ、違う違う」

春・結「?」

仁科「後輩が映画撮るんだけど」

春「行かないよ」

仁科「いや、エキストラがいるから」

春「行かないよ。面倒くさい」

仁科「村瀬も来るよ」

春「・・・」

仁科「・・・」

結「あ!行こうよ」

春「うーん」

結「だって入部したし」

仁科「じゃあ、あなただけ行きます?」

結「ああ、はい行く行く」

春「あ、待って、仲間はずれにしないで」

仁科「来る?」

春「行く」

仁科「よし」

 

〇春の自宅

春、音楽を聴きながら弁当を作っている(普段より女性らしさが出ている服装)。

裕次、それを見ている。

春「?」

裕次、目線をそらす。

だんだんノリノリになる春。

 

〇道路

トートバッグを持った春、音楽を聴きながらノリノリで住宅街を歩く。

 

〇バスの中

バスの後部座席

二人席に並んで座る春と村瀬。

離れたところからそれをニヤニヤしながら見る仁科と結。

村瀬、春の格好を見る。

春、スカートをはいている。

春「?」

村瀬「今日、森で撮影だけど大丈夫?」

春「え?そうなの?」

村瀬「え?聞いてない?」

春「何か、よくわかんなくて」

村瀬「うん・・・」

春「・・・」

村瀬「・・・」

春「あ、この前・・・」

村瀬「・・・」

春「この前言ったこと、あんま気にしないで良いから」

村瀬「・・・」

春「・・・無視しないでよ」

村瀬「・・・わかった」

春「・・・」

村瀬「・・・」

 

〇道路

山につながる曲がりくねった道路。

走るバス。

 

〇森の中

拳銃を持った男二人(20)に指示するカメラを持っっている監督の三浦。

後ろでエキストラの春と結と仁科と村瀬。

三浦が男二人に指示を終え、エキストラのところに来る。

三浦、春の服装を見る。

春、何故かトートバッグを持っている。

春「?」

三浦「なんか、目立つな」

春「え?」

三浦「なんで、そんな格好で?」

春「だって、話聞いてないし」

三浦「その靴、危ないですよ」

春「うるさいな、大体、映画ほとんど見ないあなたが、何で監督なの?」

三浦「あ!痛いとこつくな」

仁科「まあまあ」

村瀬「タラタラしてないで早くやろうよ」

三浦「あ、はい」

春「(村瀬を見る)・・・」

村瀬「(むっとしている)・・・」

×   ×   ×

拳銃を持った男二人が言い争っている。

春、結、村瀬、仁科はそれを偶然見つける大学生。

春と結、並んで歩いている。

その前に村瀬と仁科。

村瀬、怒って見える。

春、その村瀬を見ている。

春「(結に小声で)ねえ」

結「?」

春「(小声)怒ってない?」

結「?」

春「(小声)村瀬くん」

結「そう?」

三浦「カット!」

春、結、村瀬、仁科、止まる。

三浦、春のところにかけよる。

春「?」

三浦「うーん」

春「何?」

三浦「なんか、目立つな」

春「・・・」

三浦「すみません。ちょっとあっち行っててもらって良いですか?」

春「・・・」

三浦「?」

春「じゃあ、私何しに来たの?」

三浦「ああ・・・」

村瀬「行けよ」

春「え・・・」

村瀬「そう言ってんだから」

春「そんな、そんな言い方しなくても、良いじゃん!」

村瀬「あ・・・、ごめん、いや、日が落ちる前にさ」

仁科「そうそう、日が落ちると撮れなくなるから」

春「はいはい」

春、去って行く。

村瀬「・・・」

結「あ・・・」

結、春を追っていく。

仁科が結の手をつかむ。

結「?」

仁科、首を横に振る。

村瀬「・・・」

村瀬、春を追っていく。

三浦「あ・・・、村瀬さん・・・」

仁科「あ、とりあえずあっちのツーショット先に撮ろうよ、時間ないし」

三浦「ああ、はい」

×   ×   ×

春、早足で歩く。

それを追う村瀬。

春「何?」

村瀬「どこまで行くの?」

春「帰る」

村瀬「帰るなって」

村瀬、春の手をつかむ。

春、手をふりほどく。

春「素人の映画の手伝いなんかしたくないし!」

村瀬「・・・」

春「・・・」

村瀬「そう言うこと言うなって」

春「馬鹿じゃない。サークルとか真剣になっちゃって」

村瀬「・・・」

春、去って行く。

村瀬、追いかけない。

春、足を踏み外し、消える。

村瀬「!」

村瀬、慌てて追う。

春が小さな崖から落ちている。

村瀬、崖を駆け下りる。

村瀬「大丈夫?」

春、足をくじいた。

春「・・・」

春、泣いている。

村瀬「あ・・・」

春「最悪」

村瀬「え?」

春「こんな格好で来て・・・」

村瀬「・・・」

春「あーあ」

春、トートバッグを拾う。

トートバッグに弁当が入っていた。

村瀬「?」

春、それを隠す。

村瀬「あ・・・」

春「・・・」

村瀬「作ってきたの?」

春「・・・」

村瀬「(笑う)」

春「(嗚咽)」

村瀬「ピクニックじゃないんだから」

春「(泣く)」

村瀬「ああ、ごめんごめん」

春「もう、やだ」

春、ゆっくり立ち上がる。

春「帰る」

村瀬「待って」

村瀬、春の手をつかむ。

春、手を離す。

村瀬「違う!」

春「何!」

村瀬「せっかく作ってきたんだから食べようよ」

春「馬鹿にしてんの?」

村瀬「違うって」

春「笑ったくせに」

村瀬「おいしそうじゃん」

村瀬、強引に弁当を取り出す。

春「ちょっと」

村瀬、卵焼きを食べる。

春「ねえ!」

村瀬「あ、君んとこもしょっぱいんだ」

春「え?」

村瀬「うまいよ」

春「・・・」

村瀬「他のもちょうだいよ」

春「2300円」

村瀬「え?」

春「2300円になります」

村瀬「え・・・、なんか微妙にリアルな数字」

春「うそ」

×   ×   ×

並んで座る春と村瀬。

村瀬、唐揚げを食べる。

村瀬「うまい!これ作ったの?」

春「冷凍」

村瀬「ああ、そっか」

春「・・・戻んなくて良いの?」

村瀬「ああ・・・」

春「・・・」

村瀬「・・・」

村瀬・春「さっきは、ごめん」

村瀬「ああ・・・」

春「ごめん」

村瀬「いや、わざと冷たく・・・」

春「え?」

村瀬「わざと・・・」

春「何で?」

村瀬「あ!行くわ」

村瀬、立ち上がる。

春「・・・」

村瀬「帰る?」

春「・・・どうしよう」

村瀬「どっちでも良いけど」

春「恥ずかしい」

村瀬「どっちにしろ、一緒に行くから」

村瀬、春に手を差し出す。

春「・・・」

村瀬「また、落ちたらたまらんし」

春、無言で村瀬の手につかまり立ち上がる。

春「ごめん、帰るね」

村瀬「うん。じゃあ、バス停まで」

春「・・・」

春、先に歩く。

それを追う村瀬。

×   ×   ×

歩く春と村瀬。

春、足を引きずっている。

村瀬「足、大丈夫?」

春「大丈夫」

村瀬「さっき」

春「・・・あの、さっき」

村瀬「?」

春「さっき『わざと』って」

村瀬「え?ああ・・・」

春「・・・」

村瀬「下心」

春、止まる。

春「え?」

村瀬「だから下心、あるように見られたらいやだから」

春「・・・」

村瀬「ちょっと良いなって思った」

春「・・・」

村瀬「キモいでしょ?」

春「キモい」

村瀬「ほら」

春「じゃあ、下心あるんだ?」

村瀬「・・・」

春「?」

村瀬「どうだろう」

春「どうだろうって」

村瀬「宗方さんのことよく知らないし」

春「何それ?」

村瀬「ごめん、忘れて」

村瀬、先に歩く。

春、動かない。

春「(つぶやく)わかった、タイプじゃないんだわ」

村瀬「え?」

春「見た目か?やっぱり見た目か」

村瀬「そんなこと口に出す?」

春「嫌いなら嫌いで良いよ」

村瀬「・・・そんなことないけど」

春「え?」

村瀬「そんなことないけど」

春「・・・」

村瀬「いや・・・」

春「・・・もう!私を彼女にしたい?したくない?どっち?」

村瀬「え・・・」

春「したくないなら、諦めるし、したいなら彼女にして!もう、面倒くさい!」

村瀬「ああ・・・、したい、したい、けど・・・」

春「何?したいって?彼女にしたい?違うことしたいだけ?どっち」

村瀬「いや、違う!違う!」

春「もう!」

春、村瀬の口にいきなりキスをする。

村瀬「!」

春「じゃあ!」

春、去って行く。

村瀬「あ・・・」

村瀬、呆然としている。

 

〇バス停

人気のない山道のバス停。

春、村瀬、バス停でバスを待っている。

地元の子供たちがはしゃいでいる。

春「・・・もう、良いって」

村瀬「・・・」

春「・・・」

村瀬「(小声で)後でゆっくり話したい」

春「・・・」

村瀬「いろいろ話さないといけないことがあるから」

春「・・・メールして」

村瀬「ああ、うん」

春「待ってる」

村瀬「うん」

バスが来る。

 

〇森

三浦が撮っている映画の場面。

男A「どういうことだ?」

男B「だからあいつがモグラだったんだ!」

男A「やはり・・・」

男B「そう、あいつが」

男A、男Bに拳銃を向ける。

男B「!」

男A「下手な演技はやめな!」

森に鳴り響く銃声。

結「きゃあああああ!」

男A「!」

仁科「ああ、何てこった!」

男A「しまった」

男A、仁科に銃口を向ける。

結がかばう。

結、撃たれて倒れる。

 

〇春の自宅(夜)

パソコンに向かって作業している裕次。

近くに座っている春、スマホをじっと見ている。

裕次、その春を見る。

裕次「?」

春、スマホを見ている。

裕次、作業に戻る。

春のスマホがメール受信。

春、立ち上がってメールを見る。

裕次「?」

春「あ・・・」

春、座る。

裕次、作業に戻る。

じっとスマホを見ている春。

裕次、咳払い。

裕次「ああ」

春「・・・」

裕次「前言ってた話だけどさ」

春「(気のない返事)うん」

裕次「社長に言ってあるからね」

春「うん」

裕次「来週か」

春「うん」

裕次「ああ・・・」

春「・・・」

裕次「良いんだね?」

春「うん」

春のスマホがメール受信。

春「!」

春、立ち上がる。

裕次「?」

春「(裕次の存在に気づき)あ・・・」

春、部屋を出て行く。

裕次「?」

裕次、パソコンに向き直す。

裕次「(ため息)」

 

〇駅前

春を待つ村瀬。

村瀬、スマホを見る。

村瀬、スマホをしまう。

村瀬、思い直しスマホを出し、春に電話。

村瀬「あ・・・、もしもし」

春の声「もしもし」

村瀬「あ、もう着いたけど」

春の声「どこ?」

村瀬「○○の前」

春「え?あ!」

着飾った春、村瀬の近くにいる。

村瀬「(スマホを耳にあてたまま)ああ」

春「いたいた」

村瀬「・・・」

春「?」

村瀬「(春に見とれる)ああ・・・、どこいく?」

春「え?決めてないの?」

村瀬「ああ。ごめん」

春「じゃあ、とりあえず・・・」

村瀬・春「ボウリング!」

春「ああ・・・」

村瀬「行こう・・・」

 

〇ボウリング場

ボウリングをする春と村瀬。

春がストライク。

ハイタッチを求める春。

村瀬、緊張してぎこちないハイタッチをする。

村瀬、ボウルの玉をふく。

○卓球場

卓球をする春と村瀬。

しばらくラリー。

春、いきなりスマッシュ。

村瀬の顔面にぶつかる。

春「あ・・・ごめん」

村瀬「わざと?」

春「違うって!」

村瀬、玉をとりにいく。

春「ごめんねえ」

 

〇フードコート

牛丼を食べる春。

ソフトクリームを食べる村瀬。

春「それで足りる?」

村瀬「なんか食欲ないんだわ」

春「何?調子悪いの?」

村瀬「いや・・・」

(緊張している村瀬)

 

〇日が暮れる町

 

〇駅前通り近くの公園(夕方)

スーツを着た裕次が歩いている。

弁護士バッジをつけている。

裕次、疲れたのか近くにあるベンチに座る。

裕次、スマホを出し、スマホを見る。

行き交う人の声が聞こえる。

そこに一方的にしゃべる春の声が聞こえる。

裕次「?」

顔を上げる。

春と村瀬が並んで歩いている。

裕次、春に気がつかれないように逆を向く。

春「え?じゃあ、受かったら東京行くってこと?」

村瀬「うん」

春、止まる。

村瀬「?」

春「そっか・・・」

村瀬「・・・宗方さんは?」

春「え?」

村瀬「就職?」

聞いている裕次。

春「ああ・・・」

村瀬「どうするの?」

春「ねえ」

村瀬「?」

春「名字じゃなくて良いよ」

村瀬「え?」

春「・・・春で、良いよ」

聞いている裕次。

村瀬「いや、いきなり、そんな」

春「・・・なんか他人行儀」

村瀬「・・・」

春、ベンチに座る。

裕次、入れ替わりで立ち上がる。

春「あ、ごめんなさい」

裕次「いえ」

村瀬「すみません」

裕次「いえ」

春「あ・・・」

裕次「・・・」

村瀬「?」

春「ああ、お父さん」

裕次「いえ」

村瀬「え?」

春「奇遇だね」

裕次「いえ」

村瀬「え?え?」

裕次「ああ。どうした」

春「裁判?」

裕次「うん」

春「ああ・・・、えっと」

春、村瀬の横に行く。

村瀬「!」

春「村瀬義男さん」

裕次「ああ、どうも」

村瀬「は、はじめまして」

裕次「はじめまして」

春「えっと、私のお父さん、・・・例の」

村瀬「ああ・・・」

裕次「例の?」

村瀬「ああ、弁護士をなさってると・・・」裕次「ああ、例の」

春「そう」

裕次「ああ、えっと、どうするの?」

春「え?」

裕次「ご飯は」

春「ああ・・・」

村瀬「あ、私行きますよ」

春「え?待って」

村瀬「ああ・・・」

裕次「ゆっくりしていけば」

春「あ、お父さん!ちょっと」

裕次「え?」

春「ああ・・・」

村瀬「?」

春「ちょっとあっち行ってて」

村瀬「え?ああ・・・」

春「ごめん」

村瀬、離れる。

裕次「?」

春「ねえ、この前の話さ、断って!」

裕次「この前・・・、ああ・・・、え?」

春「あ・・・」

裕次「もう社長に話したよ」

春「ああ・・・」

裕次「・・・」

春「あ!うそうそ、ごめんね」

裕次「・・・」

春「あ、今日、帰るよ」

裕次「え?」

春「あ・・・、じゃなくてご飯作るから」

裕次「ああ。うん」

春「ちょっと待ってて」

裕次「うん」

春「あ!断って、とか嘘うそ」

裕次「・・・うん」

春「ごめんね。じゃあ」

裕次「うん」

春、村瀬のところに戻る。

裕次「・・・」

○春の自宅前(夜)

春を家の前まで連れて行く村瀬。

春「ああ、ありがとね」

村瀬「・・・」

春「?」

村瀬「ああ・・・、えっと」

春「何?」

村瀬「・・・」

春「なに?」

村瀬「その・・・、僕たち・・・」

春「?」

村瀬「どうする?」

春「は?」

村瀬「ああ・・・」

春「また会おうよ」

村瀬「ああ・・・、うん」

春「今日、楽しかった?」

村瀬「え?ああ・・・うん」

春「ずいぶん緊張してましたけど」

村瀬「ああ・・・」

春「あなたデートしたことないの?」

村瀬「・・・」

春「あ、ごめん」

村瀬「いや。良いよ」

春「一緒にいて楽しかったよ」

村瀬「うん、こっちも」

春、村瀬に近づき、

春「私も少し緊張してた」

春、肘うちを村瀬にする。

村瀬「痛っ!」

春「あ、ごめん」

村瀬「いちいち力強いな」

春「ごめん」

村瀬「じゃあ、また」

春「うん。またね」

村瀬「じゃあ」

春「じゃあ」

村瀬「・・・」

春「・・・」

村瀬「じゃあ」

春「・・・じゃあ」

村瀬「・・・」

春「ねえ、早く帰ってよ」

村瀬「ああ・・・」

春「近所の人に見られる」

村瀬「ああ・・・」

村瀬、小走りで去っていく。

少しつまずく。

春、微笑む。

 

〇事務所(時間経過)

電子機器製造メーカー。

作業着の上着をはおった春、エクセルの使い方を経理の桐島京子(30)に教わってる。

京子「ねえ?聞いてる?」

春「あ、はい」

京子「私、誰にもこういうの教えてもらったことないの」

春「はい・・・」

京子「独学」

春「はい」

京子「大学出てる子に、これ教えるの、どんだけ時間の無駄かわかる?」

春「すみません」

京子「言いたいことわかる?」

春「えっと」

京子「自分で考えろってこと!」

春「はい」

京子「(小声で)これだから『ゆとり』は・・・」

去って行く京子。

春、パソコンに向かう。

そこに社長(男、45)が来る。

社長「ゆとり世代じゃないよね」

春「え?」

社長「春ちゃんの世代は、えっとあれだ。さとり世代」

春「はあ・・・」

社長「まあ、経理の人はあんな感じの人多いから」

春「そんな」

社長「あ、お客さん来てるからお茶煎れてよ」

春「あ、はい」

 

〇応接室

社長、取引先の営業マン、酒井(35)と話している。

春、お茶を持ってくる。

酒井「ああ、この子新人?」

社長「そうです。期待の」

酒井「名前は?」

春「あ、宗方、春です」

酒井「ああ、例の」

社長「そうなんです。例の」

春「・・・」

酒井「宗方さんの娘さん」

社長「そうなんですよ」

酒井「いやあ、良かったね、就職できて」

春「はい」

酒井「あれ?緊張してる」

春「ああ・・・、少し」

社長「まだ、大学生だから」

酒井「ああ、そっか」

社長「ええ」

春「・・・」

 

〇事務所(夜)

帰り支度をする京子。

パソコンで作業する春。

京子「あ、今日、みんなで飲みにいこうって」

春「・・・ああ。はい」

京子「宗方さんも行く?」

春「ああ・・・」

京子「ああ、それ明日で良いから」

春「あ、はい」

京子「行く?」

春「ああ・・・」

京子「?」

春「ごめんなさい」

京子「え?行かないの?」

春「あ・・・、その・・・」

京子「(ため息)まあ、強制じゃないし」

京子、去っていく。

春「・・・」

春、腕時計を見る。

 

〇学食前(夜)

学食がしまっている。

村瀬、学食の前にいる。

村瀬、スマホを見る。

村瀬、いったんスマホをしまうがスマホで電話。

村瀬「・・・」

村瀬、電話を切る。

×   ×   ×

誰もいない学食前。

春が、学食前に来る。

春、慌ててスマホを出す。

春、村瀬の着信に気がつく。

春「(ため息)・・・」

春、スマホで電話。

春「あ、もしもし」

村瀬の声「もしもし」

春「あ、ごめん。今着いた」

村瀬の声「ああ、もう学食終わっちゃったね」

春「ごめん」

村瀬、缶コーヒーを持って春のところに来る。

春「あ・・・」

村瀬「ああ、どうしよっか?」

春「うん」

村瀬「・・・社員みたいだね」

春「え?ああ・・・」

村瀬「疲れてる?」

春「・・・まあ」

村瀬「今日はやめとくか」

春「え?大丈夫だよ」

村瀬「ちょっと勉強したい」

春「勉強?」

村瀬「試験勉強ね」

春「ああ・・・」

村瀬「ごめん」

春「ああ、良い良い」

村瀬「うん」

村瀬、歩き出す。

春、付いていく。

春「研究室まで行く」

村瀬「え?前までは良いよ」

春「うん、知ってる」

 

〇居間(夜)

パソコンで仕事してる裕次。

春、黙って見ている。

裕次「え?」

春「ああ、良い?」

裕次「何?」

春「私が、会社辞めるって言ったらどうする?」

裕次「・・・」

春「あ、うそうそ!」

裕次「まだ1ヶ月たってないのに」

春「だからうそだって!」

裕次「もうギブアップ?」」

春「いや・・・」

裕次「じゃあ、冗談でもそういうこと言うなって」

春「ごめん」

春、部屋に戻る。

 

〇春の部屋(夜)

春「(ため息)」

 

〇春の自宅(夜)

裕次「(ため息)」

 

〇季節経過の映像、夏

 

〇事務所

春、経理の女性に怒られている。

 

〇図書室

村瀬、試験勉強をしている。

 

〇学食前(夜)

営業が終わった学食前にいる村瀬。

そこに春が来る。

春「ごめん、終わっちゃったね」

村瀬「ああ・・・」

春「・・・今日は大丈夫だよ」

村瀬「・・・」

春「あ!ご飯作るよ」

村瀬「・・・あの」

春「?」

村瀬「院試、試験、受かったよ」

春「ああ・・・、あ!良かったね!」

村瀬「うん」

春「じゃあ、これから遊び放題?」

村瀬「まあ、卒業研究あるし」

春「じゃあ、今日はお祝いだ」

村瀬「それでさ・・・」

春「何?何が食べたい?」

村瀬「違う」

春「え?」

村瀬「前も言ったけど、東京に行くから」

春「ああ。うん、知ってる」

村瀬「・・・」

春「何?」

村瀬「・・・」

春「問題ある?」

村瀬「その・・・」

春「・・・」

村瀬「いや、何でもない」

春「・・・」

村瀬「ああ、そうそう、カレー食べたい」

春「・・・うん、わかった」

春、先行して歩いていく。

村瀬、追う。

 

〇季節経過の映像、冬

 

〇学食

クリスマスツリーが飾ってある。

春、一人ご飯を食べている。

村瀬、食べる場所を探している。

村瀬、春を見つける。

村瀬、声をかけようとする。

そこに春の会社に来ていた営業の酒井が現れる。

酒井の声「春ちゃん?」

春「あ!」

村瀬「・・・」

酒井「座って良い?」

春「ああ、どうぞ・・・」

酒井、春の前に座る。

村瀬、ばれないように遠い席に座る。

春「えっと・・・」

酒井「おれ、ここ出身だからさ」

春「え?そうなんですか?」

酒井「ちょっと後輩に会って来た帰り」

春「そうだったんですね」

村瀬、飯を食べながら見ているが気が気じゃない。

村瀬「・・・」

酒井「会社はどう?」

春「ああ・・・、楽しいです」

酒井「へえ、そっか」

春「まだ、迷惑かけてること多そうですけどね」

酒井「社長、面白いよね」

春「ああ、そうですね」

酒井「おれ、あの人好き」

春「はい」

村瀬、食事をすぐ済ませ席を立つ。

春、村瀬が食器を片付けているのを見つける。

春「!」

酒井「?」

村瀬、春の視線に気がつく。

春、軽く手を振る。

酒井「?」

村瀬、軽く手を振り返す。

春、立ち上がる。

村瀬、去って行く。

春「あ」

酒井「あ、ごめん」

春「あ、いえ」

春、座る。

酒井「彼氏?」

春「あ、・・・友達、です」

酒井「あ、何か悪いね」

春「いえ」

 

〇部室(夜)

三浦、一人で漫画を読んでいる。

そこに村瀬。

村瀬「ひとり?」

三浦「ええ」

村瀬「クリスマスに」

三浦「ええ」

村瀬「ケーキ買ってきたけど、食う?」

三浦「勘弁して下さいよ!」

村瀬「いや、本当に」

村瀬、ケーキを出す。

三浦「いや、勘弁して下さいよ!本当」

村瀬「あ、最近、みんな来てるの、部室」

三浦「来ないっすよ。学祭終わったら」

村瀬「だよね」

三浦「村瀬さんもすげー久しぶりに来たと思ったらケーキって」

村瀬「良いじゃん、食べようよ」

三浦「絶対嫌です」

村瀬「そっか・・・」

村瀬、一人ケーキを食べる。

三浦、ケーキをじっと見てる。

村瀬「・・・宗方さんとかって最近、来ないよね」

三浦「え?誰です?」

村瀬「何でもない」

三浦「宗方さん?」

村瀬「ああ、いや」

三浦「え?なんすか?なんでピンポイントに宗方さんなんですか?」

村瀬「いや、何て言うか・・・、あ!DVD貸したまんまで」

三浦「ああ・・・、たまに来ますけど・・・」

村瀬「・・・」

三浦「っていうか電話すれば良いじゃないですか?」

村瀬「ああ、まあ・・・」

ケーキを食べる村瀬。

 

〇春の自宅(夜)

春、ケーキを作っている。

裕次、パソコンで作業している。

ケーキを作る春。

裕次、何かを思いだし、春に気づかれないように引き出しを開ける。

求人票を出す裕次。

×   ×   ×

ケーキを食べている春と裕次。

春「うん。うまい」

裕次「ショートケーキが良かったかな」

春「は?」

裕次「お父さん、チョコはあんまり」

春「知るか」

裕次「まあ、もらうよ」

春「せっかく作ったのに」

裕次「ああ、そうだ。社長、褒めてたよ」

春「え?そう?いっつも経理の人に怒られてるんだけどな」

裕次「このまま社員になる?」

春「そのつもりだけど・・・」

裕次「・・・」

春「?」

裕次、求人票を出す。

春「あれ?これ・・・」

裕次「あ、この前、だいぶ前だけど」

春「勝手に部屋入った?」

裕次「いや、違うって」

春「なんで、これがここにあるわけ?」

裕次「いや、それよりさ!」

春「え?」

裕次「いや・・・、これ捨てて良い?」

春「・・・」

裕次「期限過ぎてるから」

春「・・・私が捨てとく」

裕次「うん」

春「さ、とっととケーキ食べて」

裕次「うん。そういうとこ行きたいの?」

春「・・・」

裕次「ごめん。それを見つけたときに聞けば良かった」

春「良いよ。お父さん、社長のとこで働いて欲しそうだったし」

裕次「そう?」

春「だいたい、そんなとこ・・・、東京に行って一人暮らしするのできるかな・・・」

裕次「・・・」

春「あっち物価高そうだし。家賃とか」

裕次「・・・」

春「さ、早く食べて。さ」

裕次「・・・」

春「食べないの?」

裕次「やりたいことあるなら、やりなよ」

春「・・・」

裕次「何もやりたいことないと思ってたからさ」

春「そう」

裕次「え?」

春「別に今のままで良いし」

裕次「・・・そっか」

春「(笑顔で)うん」

春、笑顔でケーキを食べる。

 

◯春の部屋(夜)

春、スマホで電話している。

 

◯大学構内(夜)

ポケットに手を入れ歩く村瀬。

スマホの着信バイブが鳴る。

村瀬「あ・・・」

村瀬、躊躇するが出る。

村瀬「もしもし」

 

◯春の部屋(夜)

春「ああ、もしもし、今、大丈夫?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「うん」

 

◯春の部屋(夜)

春「今日、学食で会ったね」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「ああ・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「あ、この前もらった求人票」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「ああ・・・、映画会社の」

 

◯春の部屋(夜)

春「あれ、期限過ぎちゃってるから」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「ああ・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「捨てちゃって良いかな?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「え?良いよ。わざわざ電話しなくても」

 

◯春の部屋(夜)

春「せっかく探してくれたのに、ごめんね」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「良いよ。あ、履歴書とか送ってみた?」

 

◯春の部屋(夜)

春「あ、送ってない」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「そっか・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「うん、まあ、もう会社勤めてるようなもんだし」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「うん」

 

◯春の部屋(夜)

春「最近、部室来ないね?どうしたの?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「いや、単純に卒業研究、忙しくて」

 

◯春の部屋(夜)

春「今日、声かけて欲しかったな」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「いや、無茶言うな・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「無茶か?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「もしもし?」

 

◯大学構内(夜)

トラックが通り過ぎる。

村瀬「(ぼそっと)東京に来て欲しかっただけだから」

 

◯春の部屋(夜)

春「もしもし?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「あ、実験あるから!」

 

◯春の部屋(夜)

春「怒んないでよ」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「怒ってないけど」

 

◯春の部屋(夜)

春「電話・・・、迷惑?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「いや・・・」

 

◯春の部屋(夜)

春「あ、わかった彼女できた?」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「いないし・・・、あ、切るね」

 

◯春の部屋(夜)

春「ああ、ちょっと」

 

◯大学構内(夜)

村瀬「あ、ごめん、もう遅いから」

 

◯春の部屋(夜)

春「ありがとね」

 

〇大学構内(夜)

村瀬「え?」

 

〇春の部屋(夜)

春「あ、ごめん、じゃあ・・・」

春、スマホの電話を切る。

春「・・・」

春、スマホの画面を見ている。

 

〇大学構内(夜)

村瀬、同じようにスマホの画面を見ている。

村瀬「・・・」

 

〇季節経過の映像、冬

 

〇応接室

社長と酒井が談笑している。

ノック。

春「失礼します」

春、入ってくる。

春、お茶を持ってくる。

社長「ああ、ちょっと待っててください。図面持ってくるんで」

酒井「うん」

春、お茶を置く。

酒井「(春に)久しぶり」

春「あ、はい」

酒井「もう、卒業?」

春「はい」

酒井「ここに正式に就職?」

春「ああ。はい」

酒井「そっか」

春「あ、社長がOKならですけどね」

酒井「OKだろお、だってあそこの大学出てるし」

春「はあ・・・」

酒井「・・・」

酒井、自分の携帯番号を書いた紙を机に置く。

春「?」

酒井「(春と机の紙とに視線をいったり来たり)・・・」

春「?」

春、紙を手に取る。

酒井「・・・」

春、紙を見ている。

酒井「・・・」

春「えっと・・・」

春、拙い手つきでポケットから名刺を出す。

酒井、受け取る。

酒井「これ、春ちゃんの名刺じゃん」

春「ああ・・・」

酒井「いや、会社の番号は知ってるし!」

春「あ・・・。もしかして、私の知りたい・・・、とか」

酒井「うん」

春「ああ・・・」

酒井「今度、飯行こうよ」

春「あ!ダメです!」

酒井「マジメだな、大丈夫だって」

春「いや、そう言うんじゃなくて・・・」

酒井「うそ!」

春「・・・」

酒井「冗談だって」

春「大胆!」

酒井「あ、だよね?」

社長、戻ってくる。

笑う春。

社長「(春に)なんか楽しそうだね」

酒井「いや、春ちゃんの携帯番号聞いたら教えてくれなくて」

春「え!?」

社長「ちょっと、ナンパとか勘弁して下さいよ」

酒井「いや、ナンパじゃないって」

春「あ、失礼します」

社長「気をつけてね」

春「(笑顔で)はい」

春、出て行く。

酒井「ちょっとお、何言ってんの?」

社長「いや、冗談ですよ・・・」

 

〇大学構内(時間経過)

卒業式の看板。

 

〇学生会館

卒業証書の筒を持っている春と結。

春「明日からいよいよフルタイムだ・・・」

結「そっか、私はまだ二週間くらい余裕あるな」

春「良いなあ」

結「でも、先に働いてる方が楽なんじゃない?」

春「あ、確かに」

結「結構、不安だよ」

春「大丈夫。楽勝楽勝」

結「あ、明日ってどうする?」

春「ああ、だから仕事」

結「そっか」

春「何?」

結「その、村瀬くん」

春「うん」

結「明日、引っ越しだって」

春「ああ・・・」

結「いや、業者頼んでないから手伝って欲しいって」

春「ああ・・・、ごめん、無理だわ」

結「そっか・・・」

 

〇事務所(日替わり)

春、パソコンに向かってエクセルで入力作業をしている。

経理の女性が後で見ている。

気配を感じる春。

春「あ・・・」

経理「だいぶ早くなったね」

春「あ、・・・はい」

経理「何、警戒してんの?」

春「なんか怒られるかなって」

経理「やめてよ。そんなにいっつも怒ってないから、私」

春「(笑顔で)ああ、すみません」

経理「もう!あ、社長呼んでたよ」

春「あ、はい」

 

〇村瀬の家の前

村瀬、軽自動車に段ボールを入れている。

仁科が最後の荷物を渡す。

村瀬「サンキュー」

仁科「おお」

突っ立っている結。

結「あ、ごめん、私あんまり役に立たなかったね」

村瀬「いや、全然」

三浦、重そうに段ボールを抱えて突っ立っている。

三浦「これ、どうするんですか?」

村瀬「あ、部室に寄付」

三浦「いったん、下ろして良いですか?」

村瀬「ああ、うん」

三浦「ふう・・・」

村瀬「あ、これ」

村瀬、封筒を渡す。

三浦「あ、良いんですか?」

村瀬「うん、少ないけどお礼ね」

三浦「ありがとうございます!」

仁科「え?僕には」

村瀬「ああ・・・」

仁科「冗談」

村瀬「うん、知ってる」

結「あ、春」

村瀬「ああ・・・」

結「宜しくって」

村瀬「ああ、うん」

仁科「たまに来るんでしょ?こっち?」

村瀬「金あればね」

仁科「ああ、そっか」

結「来れば?」

村瀬「・・・」

結「来れば良いじゃん」

村瀬「っていうか逆に東京に来てよ。みんなの方が金あるじゃん、働くんだし」

 

〇応接室

社長と春、向かい合っている。

春「え?」

社長「春ちゃん、・・・宗方さんがオーケーならだけど」

春「・・・」

社長「?」

春「ただ、その、家族と相談してからでも・・・」

社長「ああ、もうお父さんには言ってあるから」

春「え?」

社長「気にしなくて良いよ。宗方さん自身でどう思うか」

春「・・・」

社長「急すぎたかな?どうしても一人即戦力の経理の子が必要でさ」

春「・・・行きます」

社長「そうか!」

春「行きます!」

春、立ち上がる。

社長「?」

春「あ、ちょっとだけ良いですか?」

社長「え?」

春「電話してきます」

と言ってすぐ出て行く春。

社長「う、うん・・・」

 

〇事務所

事務所のなかを走っていく春。

みんな、キョトンとしている。

 

〇事務所の外

焦ってスマホを出し、電話する春。

 

〇村瀬の家の前

村瀬、車に乗る。

村瀬「じゃあ」

仁科「じゃあ」

結「行ってらっしゃい」

三浦「メール下さいね」

村瀬「うん」

村瀬、ドアをしめる。

 

〇村瀬の車の中

村瀬、時計を見る。

村瀬、車のエンジンをかけ出発する。

 

〇村瀬の家の前

走り去っていく村瀬の車。

仁科「来なかったね」

結「春・・・」

仁科「うん」

結「・・・」

 

〇道路

走る村瀬の車。

 

〇村瀬の車の中

村瀬、車を運転。

助手席に置いてある鞄の中にあるスマホが着信している。

春からの着信。

ドライブモードになっていて村瀬は気がつかない。

 

〇事務所の外

電話をかけ続ける春。

 

〇村瀬の車の中

村瀬、車を運転。

着信しているスマホの着信が終わる。

 

〇事務所の外

スマホをもっている手を静かにおろす春。

春「(ため息)・・・」

春、事務所に戻る。

 

〇事務所

落ち込んだ様子で部屋に入る春。

一同、春を見ている。

春、視線に気がつく。

春「あ・・・」

春、恥ずかしそうに自分の席に戻る。

経理の女性が近づく。

経理「?」

春「あ・・・、すみません」

経理「ああ、ごはん食べに行く?」

春「え?ああ・・・、(笑顔)はい」

経理「どこ、行こっかな?」

春「ああ、私牛丼で良いです」

経理「ええ・・・牛丼かあ・・・、近くにベトナム料理があるんだけど・・・」

突然、村瀬の声がする。

村瀬「あの!」

一同、村瀬を見る。

春「え!!」

一同、春を見る。

村瀬「いた」

村瀬、春に向かって一直線で進む。

春「えっと・・・」

村瀬、春の手をつかんで外に連れ出す。

春「ちょっと・・・」

経理「え?(春に)誰!?」

春「あ、友達です!」

と言いながら村瀬に連れて行かれる春。

 

〇事務所の外

外に連れて行かれた春、村瀬の手を離す。

春「ちょっと!」

村瀬「・・・」

春「え?何?」

村瀬「ああ!!!」

春「・・・何?」

村瀬「えっと・・・」

春「引っ越しは?」

村瀬「あ!一緒に東京に行こうよ」

春「え?」

村瀬「ごめん。良い方法が思いつかなくて」春「はあ?」

村瀬「ごめん」

春「・・・」

村瀬「・・・」

春「すごい恥ずかしいんだけど」

村瀬「僕も・・・」

春「事務所に戻れないよ!」

村瀬「だよね」

春「・・・もう」

村瀬「これくらいしないと宗方さんには敵わないから・・・」

春「はい?」

村瀬「今すぐとは言わないから」

春「・・・」

村瀬「待ってるから」

春「・・・そう」

村瀬「・・・やっぱ違う?」

春「うーん」

村瀬「・・・」

春「どうでしょう?」

村瀬「どっち!?」

事務所からお昼休憩のベルが聞こえる。

春、後ろの事務所をチラ見する。

社員が数名様子を伺っている。

村瀬「は、はっきりさせて!」

春「うーん」

村瀬、春の両方の二の腕をつかむ。

春「(緊張)・・・」

村瀬「・・・」

村瀬、顔を近づける。

野次馬の社員たちが見ている。

村瀬、顔の動きを途中で止める。

春「何?」

村瀬「あ、ごめん・・・」

春「・・・」

村瀬「うん」

村瀬、顔を離して頭を掻く。

春「・・・」

村瀬「連絡して」

ときびすを返し去って行く村瀬。

春「・・・」

村瀬「(去りながら)落ち着いたら話す」

春、その村瀬の手を強引に引っ張ってその勢いで口にキスをする。

事務所から出てきた社員が唖然として見ている。

村瀬「!」

春、すぐに顔を離す。

春「私も東京に行く!」

村瀬「え?」

春「さっき決まった!」

村瀬「そっか・・・え!?」

春「あんたこそ、待っててよ!」

と指を指して去って行く春。

村瀬「ああ・・・」

春、軽く手を振って去って行く。

春「あとで電話する!」

村瀬「うん」

村瀬、手を振り返す。

笑顔で事務所に戻る春。

社員たちにその勢いのまま「どうもー」という感じで挨拶して部屋に入っていく。

社員たち、あっけにとられている。

それを苦笑いで見ている村瀬。

村瀬「・・・」

 

〇公園

たくさんの子供たちが親に連れられ遊ぶ公園。

ベンチに座って弁当を食べる裕次。

裕次、卵焼きを食べる。

フェードアウト。

 

〇エンドロール流れ出す。